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【オピニオン】プーチン大統領に「完敗」した安倍外交:日露首脳会談

日露首脳会談直後の12月17日、日本テレビのインタビューに答えた安倍首相は、日露平和条約締結後に歯舞諸島・色丹島を日本に引き渡すことが明記された「日ソ共同宣言」の内容について、プーチン大統領と「認識の齟齬があった」と発言した。

領土問題で何ら進展が見られなかった原因を「プーチン大統領との見解の隔たり」に置きたいという魂胆が丸見えの発言だが、これではプーチン大統領がまったく手の内を見せず、交渉の土壇場になってちゃぶ台返しを行った印象が広がってしまう。

しかしながら、首相官邸公式サイトで公開されている共同記者会見の映像(日本語通訳あり)を見ればわかる通り、プーチン大統領は自国の「見解」や「立場」を実に雄弁に語るタイプの政治家であることが分かる。

日露共同記者会見における両首脳の発言を比較しながら、安倍外交「完敗」の本質に迫ってみたい。

【日露共同会見:安倍首相のスピーチ】
12月16日に実施された共同記者会見における安倍首相の冒頭発言は約8分30秒。まずプーチン大統領を「ウラジーミル」とファーストネームで呼んで親密さをアピールする事から始まり、高齢化する元島民の方々への「人道上の理由」から、あり得べき案を迅速に「検討」することで合意したと語る。

その上で、戦後71年を経てなお両国の間に平和条約がない状態について「私たちの世代で」終止符を打つ「強い決意を確認」し、「声明の中に」明記したとして平和条約締結が見送られた事を報告する。

そして領土問題については、「それぞれの正義を何度主張し合っても」問題を解決することはできないので、「過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにウィン・ウィンの関係を築くことができる。北方四島の未来像」から解決策を探し出すという「未来志向」の発想が必要であるとして、これが「新しいアプローチ」の内容であったことを明らかにしている。

この「新たなアプローチ」に基づいて取り決められたのが、北方四島における「共同経済活動」に関する交渉の開始である。安倍首相は、このようなアプローチこそが日露平和条約の締結に向けた「重要な一歩」であり、プーチン大統領とも認識の「完全な一致」を見たと発表して、この合意を「出発点」に「自他共栄」の新たな日露関係の建設を呼びかけた。

文字数にして1786字となる安倍首相の発言だが、そのうち約3割を元島民の方々への思いを語る言葉として割いておりながら、具体的な交渉内容となると「実施を検討」「決意を確認」「発想が必要」と言った表現に彩られており、安倍首相が望む成果を手に入れられなかったことが伺える。

なお、興味深い点としては、以前記事にした鈴木宗男氏が外国人記者クラブで語った「新しいアプローチ」の内容と、安倍首相がこの日明らかにした内容がほぼ同じである点だ。

【日露共同記者会見:プーチン大統領のスピーチ】
一方、プーチン大統領の冒頭発言は安倍首相とまったく対照的である。冒頭、親しみを込めて安倍首相を「シンゾーサン」と呼び、長門の美しい風景などを簡潔に称賛すると、すぐに交渉の具体的内容について言及を始める。

まず、15日に両首脳は政府閣僚らと共に「貿易と投資の広範囲に及ぶ議論」を行い、16日のビジネス・フォーラムで「政府及び企業間で相当数の合意文書のセットに署名した」事を報告した上で、アジア太平洋地域における日本の重要性について触れた。

次に、2016年度の日本との貿易総額が「不幸なことに、28%減少している」事を示し、これが「為替や物価変動のような客観的理由だけでなく、日本によって支持された対ロシア制裁という政策」によってもたらされたものだと明確に指摘し、安倍首相の提示した「8項目の経済協力」はその埋め合わせの意味を持つことを仄めかしている。

このような発言から、プーチン大統領はクリミア危機を巡るロシア制裁に日本が加わった事が、両国の関係を決定的に悪化させた原因であると認識している事が見えてくる。(訪日直前に応じた読売新聞・日本テレビによるインタビューでも、ロシア制裁への不快感をあらわにしていた。)

また、プーチン大統領は日本政府との「8項目の経済協力」の内容として、日露統合投資ファンドの設立や沿海地方への自動車工場の建設、サハリン-北海道のガスパイプラインなど、議論の俎上に上った具体的な項目を挙げて会談の成果を報告している。

朝鮮半島問題を含む世界と地域の安全保障に関しては、日露協力が重要な役割を持つとの認識も示されている。

【北方領土と平和条約に関するプーチンの見解】
最後に、北方領土と平和条約におけるロシアの立場だが、結局のところ、プーチン大統領が求めていた「日露双方にとって不利益となることがないような解決方法」、すなわち「引き分け」という発言の真意とは、ロシアにとっての北方領土の軍事的価値を日本が尊重し、同地に米軍基地を作らせないという確証を示せ。という事だったと考えられる。

事実、三問目の阿比留氏による質疑応答の回答において、プーチン大統領は「我々は米国の(地政学的な※)関心を含む、すべての地域国を尊重しなければならない」と発言し、ロシアにとって北方領土はウラジオストックのロシア海軍が太平洋上に出るためのルートとして極めて重要なのだという事実を示唆している。(※筆者補足)

その上で、「しかしながら、日米の特別な関係と安保条約の下でのコミットメントがあり、それがどのように発展していくのか、我々はこれを知らない」事が北方領土返還の不安材料であり、「我々は日本の担当者達に対して、我々が関心を持って来た微妙な問題の全てを計算に入れるよう求めた」事を明かしている。

そうしてみると、プーチン大統領がペルーAPECで発言した、「日ソ共同宣言には二島を『どのような根拠で』返還するか、書かれていない」という発言の真意も、見えてくる。

確かに日ソ共同宣言には「日本の主権下で二島を引き渡す」とは書かかれていないが、同様に、「米軍基地が建設されない状態で引き渡す」、とも書かれていない。

だからこそ、プーチン大統領にとっては「平和条約の締結が先」だという解釈が重要となる。つまり日米安保がロシアにとって友好的に動くかわからない状態で二島を返還することはロシアにとってリスク以外の何物でもないため、まず日露平和条約の締結によって、ロシアの安保上の利益を尊重するよう、日本側の確約を求めたものと思われる。

領土の帰属よりも日露平和条約の先行締結を主張し、かつロシアの安保上の利益に配慮するよう求めることが「引き分け」だというのであれば、日本としては北朝鮮の核・ミサイル開発問題や、中国の覇権主義的な海洋進出の動きをけん制するよう、ロシアに求めることができる。

事実、先日モスクワ国際関係大学で開催された日露国交回復60周年記念フォーラムでは、中国・北朝鮮の軍事的脅威に関する日露協力についてロシア側からも

【国益を主張したプーチン大統領と、争点をぼかした安倍首相】
わずか30分以内の共同記者会見について概観したが、プーチン大統領の発言は明瞭であり、ロシアの立場や主張を明確に伝えている。
一方、安倍首相は国家としての日本の立場よりも、元島民の方々の心情をドラマチックに伝える事に腐心した様子で、「国益」に基づいて主張を戦わせることを意図的に避けているように見える。いかにも日本的な「泣き落とし」がプーチン大統領に通用すると思ったのだろうか。

外交とは、国家としての立場を明確に主張し、国益や正義の在り方について議論を戦わせるものでなければならない。そのような真剣勝負の場において、選挙のような「争点ぼかし」が通じると思ったことが、安倍外交「完敗」の要因だと言えるだろう。日本にも、「真実語」に基づいた政治を行うリーダーの登場が求められていると考える。

(以上)


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