記事一覧

【ロシア情勢】ウクライナ問題としてのロシア「伝道規制法」【解説】

先日、ロシアの宗教回帰の記事を公開したが、実のところロシアはこれと逆行するような法律が施行され、プロテスタント系キリスト教団体や人権団体から批判を受けている。

その法律とは、日本で「伝道規制法」と呼ばれる法律で、発起人となった統一ロシア党のIrina Yarovayaにちなみ、「Yaroslavl Law」と呼ばれている。同法は本年6月7日、プーチンによるサインを受け、7月20日から施行されている。

やはりロシアの宗教政策は、宗教の政治利用に過ぎないのか。ロシア特有の事情も考慮しながら、考えてみたいと思う。


まずプロテスタントなどの宗教関係者の間で大きく取りざたされているのが、同法が「教会内以外での伝道禁止」や、個人の信仰状況を当局に報告する義務を盛り込んだ内容となっており、既に複数の逮捕者が出ている点だ。

<参照>
主題:Russia's Newest Law: No Evangelizing Outside of Church
媒体:Christian Today
日付:2016.8.7
種類:報道記事/法律Kate Shellnutt 
http://www.christianitytoday.com/gleanings/2016/june/no-evangelizing-outside-of-church-russia-proposes.html

ロシア側は同法施行の理由について、過激主義やテロリスムの浸透を防ぐためと説明しており、宗教だけを狙い撃ちしたものではなく、外国勢力による国家分裂につながりそうな組織を規制する一連の法整備の一部を構成している。

同法はまた、インターネット事業者に対して、顧客情報や通信状況、メタデータの記録を要求すると共に、あらゆる宗教・宗派に対して「公の場での伝道禁止」を強制する内容となっており、ソ連時代に逆行する「警察国家」・「密告社会」を作り出す可能性が指摘されている。

様々な報道によると、インターネット&テレコムプロバイダーは、半年にわたって、利用者の記録と通信を蓄積しなければならず、メタデータに至っては3年間の蓄積が求められており、蓄積されたデータに対しては、ロシアの連邦安全保障サービスがアクセス可能だが、犯罪が計画されているのか、準備しているのか、はたまた用意されているのか、判別が難しい。

本法律により、テロや過激主義者との関連が指摘されれば、14歳の年少者でさえ刑務所に送り込むことが可能となる。

<参照>
主題:'Brave New World': Russia's New Anti-Terrorism Legislation
媒体:Forbs
日付:2016.7.8
種類:論説/Anna Borshchevskaya
http://www.forbes.com/sites/annaborshchevskaya/2016/07/08/brave-new-world-russias-new-anti-terrorism-legislation/#48385d0160f0

一見して極めて危険な香りのする法案である事はわかるが、一体何を対象としているのか、もちろん、「イスラム国」の浸透を警戒してのものである事は想像に難くないが、単に宗教弾圧だけを目的とした法律であるのかどうか、ここを見極めなければならないだろう。

一つポイントとなると考えられるのが、ロシア正教会とウクライナの微妙な関係である。

ロシア正教とは、「一か国に一つの教会組織」を備えることが原則の、キリスト教正教会の一組織であり、ロシア連邦や近隣地域を管轄する正教会の組織名称である。ロシア以外の「近隣地域」には、ウクライナやベラルーシ、カザフスタンのほか、かつてソ連邦を構成した国が含まれている。

実は公称信徒数9000万人、小教区3万区域を抱えるロシア正教会は、ロシアとウクライナが政治的対立を深めているのと同様、管轄教区の問題でも対立を抱えている。

本年2月12日、ロシア正教会のキリル総主教と、カトリック教会のフランシスコ法王が会談した。キリスト教会が1054年に東西に分裂して以降、実に962年ぶりの会談となった事が注目を浴びたが、この会談の目的の一つに、「キエフ総主教庁」などのウクライナにおける正教会の独立に対してカトリック側からも承認を与えないとの方針を共同声明に盛り込む事があった。

実はウクライナにおける「キエフ総主教庁」問題とは、単にロシア正教の一支部の問題などではなく、プーチンが掲げる「ロシア語・正教文化」に基づく「ロシア世界」の文化的根幹に関わる問題である。

日経新聞の解説記事によれば、ウクライナとは「スラブ・正教文化発祥地」であり、ここが政治的・経済的・文化的・宗教的にロシアから分離するということは、ロシアの国家的統一性、またロシアのアイデンティティーそのものに関わる問題なのである。

実際、クリスチャン・トゥデイの報道によれば、「伝道規制法」の嫌疑で逮捕されたロシア正教会の神父は、「ロシア正教会への否定的態度と、ウクライナ民族主義運動との関連」が指摘されたかどで逮捕に至っている。

このように、今回の「伝道規制法」をめぐるロシアでの「信教の自由」を巡る問題は、イスラム過激派を対象とするだけでなく、ウクライナ問題をも睨んだものであることが分かる。

<参照>
原題:ウクライナ宗教界けん制 
媒体:日本経済新聞
日付:2016年2月26日
種類:解説記事

原題:ロシア、伝道規制法で教会指導者を逮捕 説教中に
媒体:クリスチャン・トゥデイ(日本語版)
日付:2016年9月6日
種類:報道記事 
http://www.christiantoday.co.jp/articles/21959/20160906/russia-banning-evangelism-law-first-arrest-christian-leader.htm


このように見ていくと、ウクライナを押さえる一環でロシア正教の教区問題が絡んできている点、確かに政治による宗教の利用が行われている事は間違いないだろう。

公の場で信仰を語ることを否定されるというのは、信仰者にとって耐えがたい苦痛であることは想像に難くない。西洋と手を繋ぐためには人権の基本中の基本である「信教の自由」に対してさらに理解を深める事を求めたい。

ただ、一方でロシアのような多民族国家における「信教の自由」を巡る問題は、杓子定規にはいかない、難しい内容を含んでいる事を同時に認識すべきだと思う。

西洋的民主主義の基礎としての「信教の自由」は、カトリックとプロテスタントと言う同一宗教の内部で、双方が悲惨な歴史を共有しながら獲得されてきた智慧であり、キリスト教2000年の歴史の中で培われたものであることを忘れてはならない。

ましてや、ロシアが「伝道規制法」の主要なターゲットとするイスラム教は現在も宗派間での紛争を継続している状況にある。お互いに「一切話を聞かない」状態になっている宗派・宗教間の橋渡しを行い、対話の仲介の労を取る勢力が必要ではないか。

さらに言えば、プーチンがロシア世界の基盤として依拠する正教会はそもそも政治と宗教を対立概念として捉える教義ではなく、聖俗に対する認識の前提からして、欧米と異なる観点を有している。

多民族・多宗教国家であるがゆえに、宗教政策で行き詰まりを見せるロシアであるが、意外と政治的手法よりも、宗教の本質を見抜く目を養うことの方が、物事を前進させるのかもしれない。









Sponsored Link









にほんブログ村 政治ブログ 国際政治・外交へ
にほんブログ村
にほんブログ村 ニュースブログへ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ



関連記事
スポンサーサイト

Sponsored Link

ブロマガ

紹介文:ホワイトハウスで公開される、トランプ大統領の公式発言について概要を配信致します。

月刊ブロマガ価格 500円

ブロマガ記事一覧

購入したコンテンツは、期限なしに閲覧いただけます。

プロフィール

eastmedianews

Author:eastmedianews
最新の国際情勢・世界のニュースのまとめ&解説をお届けします。

主な出典

国内:主要メディア各紙(産経、日経、読売、朝日、毎日、など)

アメリカ:CNN、Fox News、Wall Street Journal、New York Times、Newsweek、Washington Post
イギリス:BBC、Times、Independent、
中国:解放軍報、新華社、人民日報
ロシア:PravdaReport、MoscowTimes、Russia Times
イラン:TehranTimes、IranDaily

各国の政府の発表した公開情報

Sponsored Link