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【解説】ロシアの脅威に直面するNATO

7月8日から9日までの2日間、ポーランドの首都ワルシャワにおいてNATOのサミットが行われた。

ミーティングの議題には、「イスラム国」、アフガン駐留、そしてウクライナ問題が取り上げられたが、特に中心的なテーマとして扱われたのは、ロシアの脅威への対抗であった。

日本人にとって馴染み薄いNATOであるが、議論されている中身を見つめれば、明日の日米関係と、世界の中での日本の役割を考える上でのヒントを見出すことができる。

ポーランド政府が公表する要約を意訳しながら、NATOワルシャワサミットを解説する。

ワルシャワ宣言について:
ワルシャワサミットにおいては、ワルシャワ宣言が採択され、声明では安全保障環境が長期的に悪化の方向に向かっていること。東欧方面でのNATOの軍事的影響力を強めてこれに対応すること。東方、南方の近隣国と安定性を構築することが確認された。

東欧方面について:
特に大きく報道された点としては、ロシアに対する抑止力としてバルト三国+ポーランドに4つの部隊を駐留する決定がなされたことだ。

駐留部隊はアメリカ、ドイツ、イギリス、カナダの四か国から構成され、4000名の規模を想定されている。部隊の派遣に関して、アメリカは2つ、ドイツ・イギリスが一つずつ部隊を提供することが想定されている。

このような決定の背景には、ロシアで近年活発化している軍事的活動と、クリミア問題に象徴される領土拡張の意欲がある。これに関して、CNNに寄稿されたIan Brzezinski(カーター政権で活躍したブレジンスキーの息子)の論考が、近年のロシアの動きを簡潔にまとめている。

→ NATO faces up to Russian challenge
CNN(opinion) 2016.7.12 By Ian Brzezinski
http://edition.cnn.com/2016/07/12/opinions/nato-summit-responds-to-russia-brzezinski/

まずNATOが強い危機感を感じている理由について、①ウクライナへの侵略行為、②米軍機・艦艇に対する挑発行為のような刺激的な軍事行動、③核戦争の危機を警告するプーチン大統領の3点を挙げている。


次に、プーチン大統領による軍事力強化の結果として、①演習における有事の動員力・展開力の急速な向上、②長距離精密攻撃能力の向上(シリアへの巡航ミサイル攻撃)、③核戦力の更新がなされた事を指摘する。

そしてクリミア併合後の緊張する国際環境において「予告なしに」実施された複数の突発的な大規模演習が、バルト三国やポーランドに対する危機感を醸成したと指摘する。

さらにNEWSWEEKの伝えるところによれば、近年、ロシア連邦議会の議員が、ソ連崩壊後にバルト三国の独立を承認したことは違憲の可能性があると、検察庁に調査を申請したという。同様の動きはクリミア事件が発生する前にも見られたとの事。

→ ロシアがクリミアの次に狙うバルト3国
NEWSWEEK日本語版 2015年7月3日(金)19時45分 ルーシー・ドレイパー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/07/post-3747.php

このような論考・報道を踏まえて、ポーランドのワルシャワ宣言要約に戻る。

ロシアについて:
ロシアはウクライナに対して攻撃的な政策を継続し、対立を選択している。ロシアの軍事行動の結果によって、安全保障環境は長期的に好ましくない方向に変化しており、NATOに東方側面に対する適当な手段を強化することを強いている。

NATOについて:
同時に、NATOはロシアと対話を継続することに合意した。その主たる目的はリスクと突発的な出来事の発生を制限し、軍事行動の透明性を向上させることにある。しかしながら、ロシアが国際法に対して十分な敬意を払わない限り、真のパートナーシップに戻る可能性はない。

弾道ミサイル防衛について:
NATOはミサイル防衛システムの発展について次のステージに移行した。これは弾道ミサイルによる攻撃から、NATOの戦力や人口、NATOに加盟する欧州諸国の防衛がさらに発展することを意味する。レジコボ(Redzikowa)基地※はNATOにおける(弾道ミサイル防衛の)の重要な一部となるだろう。

(解説)
※ポーランド北部、バルト海近くに位置する基地。2018年に完成予定の弾道ミサイル防衛基地が建設中。NATOの弾道ミサイル防衛システムは、ルーマニアとポーランドの陸上施設と、スペインに配備されている米海軍のBMD対応イージス艦によって構成される。
→ Work on U.S. BMD complex in Poland expected to start in summer
United Press International(UPI)2016.1.4 By Richard Tomkins
http://www.upi.com/Business_News/Security-Industry/2016/01/04/Work-on-US-BMD-complex-in-Poland-expected-to-start-in-summer/6311451927589/

ウクライナについて:
これまでNATO-ウクライナ間で交わされたすべての協定と決定は、継続して適用される。
ロシアとウクライナの紛争は、主権と国際法の基準に従い、クリミアを含むウクライナの領土に対する完全な状態への尊重と共に解決されなければならない。
(中略)
ウクライナの民主的な主権者の問題は、全欧州大陸の安全保障にかかわる極めて重要な問題である。ウクライナの安全なくして、ポーランドの安全はありえない。


ロシア、ウクライナと国境を接し、バルト三国とも近い位置にあるポーランドとして、クリミア問題を対岸の火事とはみなしていないことがよくわかる。

ポーランドを日本、ロシアを中国と読み替えた場合、日本にとってのウクライナ・クリミアはどこになるか。ぜひ読者諸兄にも考えを巡らせていただければと思う。

※その他掲げられていたテーマについては、割愛した。
・アフガニスタンでのNATOのミッション
・NATO近隣国との安定の促進
・「イスラム国」に対する国際的連携
・ジョージア(旧グルジア)について

※ポーランド政府の要約については下記を参照。
→ Summary of two days of the NATO Summit in Warsaw
Ministry of Foreign affairs Republic of Poland 2016.7.18
http://www.msz.gov.pl/en/foreign_policy/nato_2016/summary_of_two_days_of_the_nato_summit_in_warsaw;jsessionid=3BD098386F48598A2ACA9E38A990EB4B.cmsap2p



さて、冷戦終結以来、かつてなく「ロシアの脅威」に直面しているNATOであるが、軍事費削減中のアメリカは、NATOの同盟国に防衛負担の増加を求めていく構えである。

→ These NATO countries are not spending their fair share on defense
CNN 2016.7.8 12:52 by Ivana Kottasova
http://money.cnn.com/2016/07/08/news/nato-summit-spending-countries/

サミット開催日当日のCNNの記事によると、NATOは加盟国に対してGDP比2%以上の軍事費支出を求めているが、これを履行しているのはわずかアメリカ(3.61%)、ギリシャ(2.38%)、イギリス(2.21%)、エストニア(2.16%)、ポーランド(2%)の5か国のみであり、フランス(1.78%)、トルコ(1.56%)、ドイツ(1.19%)、イタリア(1.1%)カナダ(0.9%)などの主要国は2%未満である指摘する。

また、記事では「他のNATO加盟国に防衛支出増額を求める(ヒラリー氏)」、「同盟国がフェアな支出を行っていないため、軍事同盟を見直すべき(トランプ氏)」と言った次期大統領候補の発言を紹介している。


NATOで起きていることは、今後日米関係にも起きてくることと捉えた方が良いだろう。

注目すべきは、Wall Street Journal紙の記事である。本記事では、バルト三国へのドイツ軍の駐留が決定する以前に、ロシアへの効果的な抑止のためにもドイツ軍の関与が特に重要であるとするNATO関係者の発言を注意深く伝えている。

→ NATO Allies Preparing to Put Four Battalions at Eastern Border With Russia
Wall Street Journal 2016.4.29
http://www.wsj.com/articles/nato-allies-preparing-to-put-four-battalions-at-eastern-border-with-russia-1461943315

ドイツは米国とニュークリア・シェアリングを行うことで核抑止力を得ると共に、紛争の防止などドイツの安全保障に関連する内容であれば、地球上のどこにでもドイツ軍を派兵することが可能とする憲法解釈を採っている。

ロシアの脅威に直面するNATOへの対応を見る限り、アメリカが同盟国に対して防衛費の負担増を求めてくる流れは回避できないと受け止めるべきだろう。

NATOにおけるドイツの対応は、日本の安全保障政策にとってみても、参考になることが多々あるのではないかと考える。





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主な出典

国内:主要メディア各紙(産経、日経、読売、朝日、毎日、など)

アメリカ:CNN、Fox News、Wall Street Journal、New York Times、Newsweek、Washington Post
イギリス:BBC、Times、Independent、
中国:解放軍報、新華社、人民日報
ロシア:PravdaReport、MoscowTimes、Russia Times
イラン:TehranTimes、IranDaily

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