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トルコ政府の非常事態宣言と、国家緊急権について

7月20日、トルコ政府は3か月間の非常事態を宣言した。トルコメディアの記事をソースに、非常事態宣言の内容と、トルコ政界の反応を紹介する。

メディアによると、非常事態宣言の目的について、政府はギュレン氏の影響排除を一番の念頭に置いていることがわかる。

まず大統領は「国家安全保障会議による包括的な評価の結果、クーデターに関わったテロ組織を迅速かつ完全に取り除く(eliminate)ため、我々は憲法120条の規定から非常事態宣言の勧告を決断した」ことを宣言した。

トルコ憲法の規定では、「自由民主主義体制の転覆または基本的権利および自由の一掃を目指す広範な暴力活動」の兆候が見られるか、「暴力事件を理由として公共の秩序が著しく乱された」場合、国家安全保障会議の意見をもとに6か月を超えない範囲で非常事態を宣言できるとしている。

非常事態宣言の発令には議会の承認が必要だが、承認されれば大統領は国民の自由や権利を大きく制限できる一方、公職従事者の待遇を変更することができる。また、法律と同等の効力を持つ政令を、大統領名で発布することができる。

トルコにおいて非常事態宣言を発出することができるのは、自然災害や深刻な景気後退、あるいは憲法で保護される自由や民主主義が暴力によって崩壊する危機に直面したときとされる。


トルコのメディアによれば、非常事態宣言下において政府は以下の権限を持つとされる。
・拘留期限の48時間までの延長。
・特定の時間、場所への集合の制限。
・身体や乗物、財産に対する調査と没収。
・全ての国民への身分証の提示要請。
・特定の新聞、雑誌、パンフレット、書籍、リーフレットに対する印刷、出版と配布、複製を禁止し、検閲の対象とすること。
・特定のスピーチ、文章、画像、映画、録音物、映画、記録物、放送への取り締まり、録音を禁止すること。
・特定の個人やグループが特定の場所に入ることを制限すると共に、彼らを特定の場所に移動させること。
・集会、会合、行進、パレードを禁止し、延期すること。


エルドアン氏は、国民に対して非常事態宣言が「戒厳令(martial law)」と同義ではないこと、人権や自由の制限を導くものではないとして、憶測を呼ばないよう呼び掛けている。

また、ユルドゥルム首相は非常事態宣言を「政府を揺さぶる目的で国家組織に潜伏している、ギュレンが指導するとみられる違法な組織と戦う必要性」からのものであり、「法の支配を護り、民主主義と経済を安定させる」ためのものであると発言している。

法相も公式発言においてギュレン運動をテロ組織と公言し、法曹関係者や警察、教育関係者に「ガン細胞の様に広がっている」と非常事態宣言を正当化している。


非常事態宣言が審議される議会においては、エルドアン氏の所属する公正発展党(AKP)、民族主義者行動党(MHP)が非常事態宣言に賛同する一方、共和人民党(CHP)、クルド系の国民民主主義党(HDP)が批判的立場をとっている。

議会は非常事態宣言賛成派が与党を占めているが、下記に、非常事態宣言に批判的立場をとる政党のコメントを紹介する。

共和人民党、副委員長のテッカン氏は、宣言について一般的に法的根拠があるとみられているものの、「現在の情勢において政治的に可能とは言えない」と指摘し、「国民は復讐への野心を感じ取るだろう。怒りは理解できるが、政治的な団体は社会の正常化の問題に関して、怒りを掻き立てる代わりに真剣に対応しなければならない」とコメントしている。
また、「正常化への道は、正規の、通常の手続きによる。」と強調する。

クルド系の政党は非常事態宣言を「反対勢力の一掃を目的とし、基本的権利や自由の廃止に向かう事実上の大統領制※だ」と酷評し、「クーデターへの対策と、彼らによって与えられた損害は民主主義が追求するものではない。しかしトルコはクーデターか、非民主的な政府かの二択を強制されている。我々はこれらの選択肢を拒絶する。」とする中央執行委員会の声明を公表している。
※トルコは首相の権限が強い議院内閣制とされる

本記事の出典
→ Turkey declares three-month state of emergency
Hurriyet Daily News 2016.7.20
http://www.hurriyetdailynews.com/turkey-declares-three-month-state-of-emergency.aspx?pageID=238&nID=101896&NewsCatID=341


最後に、「非常事態宣言」と「戒厳令」の違いについて付記する。

両者は国民の自由や権利を制限し、行政府に一定の立法権限を与える点で似通っているが、全く異なる状況を前提としている。

まず「非常事態宣言」は、災害などのように、平時の仕組みでは対応できないような問題が起きた際、行政機関に一定の権限を付与する仕組みの事を言う。つまり三権が機能し、憲法が生きている状態の中で宣言されることを想定する。

日本で非常事態宣言にあたるものを挙げるとすれば、「災害対策基本法」に基づく「災害緊急事態※」宣言であるが、災害により孤立した地域での物資不足に対処したり、私財を喪失した人の金銭的債務の支払い延期などの措置に限られた内容となっている。
※東日本大震災では発令されず。

これに対して「戒厳令」とは、国が戦争による侵略や大規模なテロ、内乱などに直面し、平時の行政組織では憲法秩序を維持することができない状態に置かれた場合、その回復のため一時的に行政から軍に秩序維持の権限が移される事を言う。

軍の指揮権は首相や大統領などにあると憲法(日本の場合は自衛隊法)に規定されているため、戒厳が布告されたからと言って軍が勝手に暴走を始めるというわけではない。

こうした「戒厳令」や「非常事態宣言」を布告する権能については、「国家緊急権」という概念で議論されている。

自民党の改憲草案の中で、これを憲法に加えるか否か、特に議論が激しく起きる論点であるが、ドイツやフランスには憲法上の規定がある一方、米国憲法では国家の「implied power」として元々予定されているものであるから、特に記載しない立場を取っている。

このような違いは、憲法や法律の考え方に、英米法と大陸法という二つの流派のようなものがあり、それぞれの考え方や歴史上の蓄積の違いから生じていると言ってよい。

ちなみに日本の法体系は、英米法、大陸法両方に影響を受けている。緊急権について憲法上の規定(改憲)が必要とする見方もできれば、そもそも当然国家が保有している権利としてみなすこともできるかもしれない。



トルコでの非常事態宣言発令を受けて、日本でも憲法と非常事態における政府の権限について、議論が高まってくると考えられる。

議論の一助となれば幸いである。




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